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病院のブログ

胸膜中皮腫について (①はじめに)

 先日行われた院内病理解剖検討会で、私が受け持った症例(60歳代男性)が、取り上げられました。若い頃アスベスト業務に就いていたので、「労災の死後認定を、家族のために得たい」との本人の遺志による解剖でした。

 私は中皮腫を含むアスベスト関連疾患の講演の冒頭に、必ず米国空母「ミッドウェイ」の話をします。1986年に横須賀で改修工事が為されました。1945年就航ですから、当時41歳、そろそろ退役ですが、それでも軍事機密の塊である空母の改修が、同盟国とは言え、なぜわが国で為されたのでしょうか?

 アスベストの発がん性は、1950年代には肺がんで、1960年代には中皮種で明白になっており、1978年には米国政府は自国民に向けて「アスベストの危険性に関する」警告を発しました。つまり、米国内ではアスベストの塊である古い軍艦の改修作業は出来なくなっていたのです。

 それ故、勤勉で人の良い(これは美徳だと思います)、しかし「モノを知らない」、故に文句が出ない日本人にお鉢が廻って来たのです。その時の作業員からどの程度の健康被害者が出たかは判りませんが、「モノを知らない」とはそういうことだと思います。

 冒頭の患者さんが、アスベスト作業に従事したのは1970年代後半で「当時はアスベストの危険性なんか知りもしなかった」と言っておりました。しかし、彼を含む多くの日本人も学習し、2005年の「クボタ騒動」を経て、石綿新法が制定されたのです。

 解剖の結果、労災認定に十分なアスベスト小体(繊維)が検出されました。「勤勉で人の良い、そして学習していた」彼の遺志が生かされることを願っております。

 中皮腫は医学的のみならず、社会学的にも重要な疾患であり、皆さんの関心も高いと考えます。今月から月1回、合計8回に亘り、①はじめに、②中皮腫とは、③アスベストとは、④診断、⑤アスベスト吸入の証左、⑥中皮腫の治療、⑦労働災害としての補償、⑧非労働災害としての救済、訴訟の和解としての賠償 の予定で、主として胸膜中皮腫について記載してまいります。

複十字病院 呼吸器内科
内山 隆司

胸膜中皮腫について (②中皮腫とは)はこちら

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