胸膜中皮腫について (②中皮腫とは)
中皮(細胞)が腫瘍化したのが中皮腫です。では、中皮mesotheliumとは何でしょうか?
人の体は37.2兆個の細胞から成ると報告[1]されていますが、最初は1個の受精卵です。受精卵が細胞分裂を繰り返し、外胚葉・内胚葉・中胚葉という三つの細胞グループが形成されます。
外胚葉は脳神経組織および体の外表面で外界と接している表皮(皮膚の表層)組織に、内胚葉は呼吸器・消化器・下部泌尿器(膀胱、尿道)などの体の内表面で外界と接している上皮(管腔臓器の表層)組織に、中胚葉は筋肉・骨・脂肪組織・血管などの体(構造)を支える組織と、腎臓・尿管・膀胱の一部・生殖腺に、分化(細胞の形態や機能が変化し、各種役割が担われる現象)していきます。
「中皮」は中胚葉由来です。基本一層の中皮細胞のシート状配列が袋閉じし、ビーチボールのような袋構造になった組織です。その袋はつぶれており、内部には空気ではなく少量の液体が存在しています。
臓器には心臓(心拍動)や肺臓(呼吸)のように絶えず動いている臓器があります。消化管も絶えず蠕動運動をしています。そのような「動く臓器」は周囲構造との軋轢(摩擦)を絶えず受けることになりますが、中皮で覆われることにより、中皮および内部の液体がクッションとなり、「周囲構造との軋轢が緩和されている」と、合目的的には考えられます。
中皮のうち肺臓を包むのが「胸膜」(左右二箇所あります)で、袋状の胸膜の内部が「胸腔」です。心臓を包むのが「心外膜」で、その内部が「心(外)膜腔」です。消化管を包むのが「腹膜」で、その内部が「腹腔」です。なお、通常は動きませんが睾丸も中皮に包まれます。(図1参照)
中皮による臓器の包まれ方を表したのが図2です。バスケットボールが各臓器(心臓、肺臓、消化管)、空気を抜いたビーチボールが各中皮(心外膜、胸膜、腹膜)を表します。各臓器に接する側の中皮を「臓側膜」、反対側の中皮を「壁側膜」と呼び、胸壁・腹壁などの周囲構造を裏打ちします。そして中皮腫は必ず「壁側膜」から発生します。
次回は「胸膜中皮腫」を例に、胸膜中皮腫瘍化の最大の原因である「アスベスト」について説明します。
複十字病院 呼吸器内科
内山 隆司