胸膜中皮腫について (④中皮腫の診断)
初診時、多くの診療科では患者の訴えを聞くこと(問診)から診察を始めますが、当院の呼吸器科外来では、まず胸部X線画像を撮影、または画像データを持参してもらい、その画像を確認してから問診を行います。これは結核等の感染性疾患を速やかに見つけ隔離するための方策なのですが、呼吸器疾患の診断には胸部X線画像が必要不可欠である事をも意味します。
中皮腫は肺を覆う胸膜細胞(中皮)が腫瘍化した疾患です。よって胸部画像上、中皮腫を示す陰影は肺の表面外側に出現します。
図1は、中皮腫症例1の胸部正面像(図1左)と胸部CT像(図1右)です。胸部正面像向かって左が右肺、向かって右が左肺です。右肺はほぼ正常ですが、左肺は全体が白っぽくなっています。CT像で見ると肺は黒く、肺の外側がモコモコと厚く白くなっています。この厚く白くなっている部分が中皮腫です。鎧の様に肺を覆っているのが判ります。
図2は、同一症例のPET/CT(正面、側面、断面)像です。PET/CTは、細胞分裂が盛んな癌細胞や強い炎症(細胞の活発な活動)が起こっている場所に取り込まれる薬剤を注射し、その体内分布を外から見る検査です。中皮腫にはこの薬剤を高濃度に取り込む特徴があります。
図3は、中皮腫症例2の胸部正面像(図3左)と胸部CT像(図3右)です。胸部正面像はほぼ正常に見えますが、右下部の横隔膜と肋骨が成す角度(矢印)が、鈍角になっています(左は鋭角)。これは右胸腔に液体が溜まっている所見です。CT像で見ると右肺前方の横隔膜との境界に結節が、背側には胸水貯留が認められます。この結節が怪しいです。
図4は、内視鏡を胸腔に挿入する検査(胸腔鏡)の画像です。左の画像にある結節の一部を道具で千切って採取し、病理検査に提出したところ「中皮腫」の診断を得ました。右の画像にある白色の敷石状病巣も中皮腫です。
口と鼻は外界に開放されており、種々雑多なモノが外から入ってきます。食道に入ったモノは栄養として吸収された以外は、消化管を通過し便とともに出てきますが、気管に入ったモノは、肺の奥に入るとなかなか出てきません。前にも述べましたが、中皮腫の原因はほぼアスベストです。よって、中皮腫を含むアスベスト関連疾患を疑う場合は、アスベスト吸入歴の問診が必須となります。
次回は「アスベスト吸入の証左」について述べることにします。
複十字病院 呼吸器内科
内山 隆司