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病院のブログ

胸膜中皮腫について (⑦労働災害としての補償)

胸膜中皮腫について (⑥中皮腫の治療)はこちら

 健康を維持するには栄養、運動、休養の三つを過不足なく賄う金銭があれば十分ですが、一度損なった健康を取り戻すのは容易なことではありません。ましてや「胸膜中皮腫」となると、いかなる大金をつぎ込んでも健康の回復は不可能に近く、多くは生命に関わってきます。だとしても療養のため、生活のため、遺族の生計のためにも、金銭はあるに越したことはないでしょう。

 「アスベスト関連疾患」に罹患してしまったら、対象に応じた以下の三種類の金銭給付がありえます。

(1)「労働災害(以下 労災)としての補償金」

対象はアスベストばく露作業従事歴を有する労働者
都道府県労働局 労働基準監督署 資料

(2)「非労災としての救済金」

対象は(1)の対象にならない方々
独立行政法人環境再生保全機構 資料

(3)「訴訟の和解としての賠償金」

対象はアスベスト工場の元労働者やその遺族の方々で、国に対して訴訟を提起し、一定の要件を満たすことが確認された方々。(1)(2)との重複も可能
厚生労働省HP

 「労災としての補償金」給付の対象になりえる「アスベスト関連疾患」として、「石綿肺」「石綿による肺がん」「中皮腫」「びまん性胸膜肥厚」「良性石綿胸水」の五疾患が指定されています。
 このうち「良性石綿胸水」は明瞭な診断基準がないので確定診断が難しく、認定のハードルが高いのが現実で、本省(厚生労働省)での協議が必要になります。また、「非労災としての救済金」給付と「訴訟の和解としての賠償金」給付の対象疾患に「良性石綿胸水」は含まれていません(表1参照)。

 
表1 給付金の種類と対象疾患

根拠となる法律および通達や判決 石綿肺 石綿による肺がん 中皮腫 びまん性胸膜肥厚 良性石綿胸水 相談先
労働災害としての補償金 ・労働者災害補償保険法(S22/4/7)
・石綿による疾病の認定基準について(H15/9/19通達)

本省協議 労働基準監督署
非労働災害としての救済金 石綿による健康被害の救済に関する法律(H18/3/27)

×

環境再生保全機構
訴訟の和解としての賠償金 大阪泉南アスベスト訴訟最高裁判決(H26/10/9)

×

弁護士

 「アスベスト関連疾患」が労災認定されるには、「アスベストばく露作業従事歴があること」「相当量のアスベスト吸入の証左があること(シリーズ⑤「アスベスト吸入の証左」で記載済み)」の二つの条件が必要になります。以下疾患ごとに記載します。

1)石綿肺:職業性のアスベスト吸入が原因(以下のすべてを満たす)

  • アスベストばく露作業従事歴がある(期間の規定なし)
  • 公的に「じん肺(職業性の粉塵吸入による肺疾患)」として認められ、管理区分が決定されている
  • 「じん肺管理区分 管理4(最重症区分)に該当する著しい肺機能障害がある」または「胸部エックス線写真にじん肺所見があり以下のいずれかの合併症がある(肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸)」

2)石綿による肺がん:肺がんそのものはアスベスト吸入が原因とは限らない(以下のいずれかを満たす)

  • 石綿肺が合併している
  • 「アスベストばく露作業従事10年以上」かつ「胸膜プラークがある」
  • 「アスベストばく露作業従事1年以上」かつ「広範囲(胸壁内側の1/4以上)胸膜プラークがある」
  • 「アスベストばく露作業従事1年以上」かつ「アスベスト繊維やアスベスト小体が規定以上ある」
  • リーフレット参照

3)中皮腫:アスベスト吸入が主たる原因だが、吸入が職業性とは限らない(以下のいずれかを満たす)

  • 石綿肺が合併している
  • アスベストばく露作業従事1年以上

4)びまん性胸膜肥厚(以下のすべてを満たす)

  • アスベストばく露作業従事3年以上
  • 著しい呼吸機能障害
  • 肥厚の広がりが片側ならば胸壁の1/2、両側ならば1/4以上

5)良性石綿胸水

  • 本省(厚生労働省)での協議

 
 一つお断りしておきたいことがあります。「非労災としての救済金」という表現は公的には使用されていません。参照とした環境再生保全機構のパンフレット「アスベストと健康被害」のP22「石綿健康被害救済制度の紹介」には以下の記載があります(下線部は筆者による)。

『石綿健康被害救済制度は、石綿による健康被害の特殊性から、石綿による健康被害を受けられた方及びそのご遺族の方で、労災補償等の対象とならない方に対し迅速な救済を図ることを目的として「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づき創設されました。この特殊性とは、中皮腫や肺がんといった石綿による健康被害が長い潜伏期間を経て発症することから、原因者の特定が非常に難しいことを指しています。
(中略)
 救済給付の費用負担は、石綿による健康被害とその原因者との因果関係が特定できないこと、すべての国民や事業者が石綿による恩恵を受けてきたことから、国からの交付金、地方公共団体からの拠出金、労働保険料を納付している事業主からの拠出金、石綿との関係が深い事業主からの拠出金により石綿健康被害救済基金を設け、給付に必要な費用を賄うこととなりました。』

 当初は「労災」でないならば、それは「公害」であろうと考えておりましたが、上記の趣旨に従えば「公害」という言葉は使わぬ方がよいと考え「非労災」という言葉を使用しました。

次回(最終回)は「⑧非労災としての救済、訴訟の和解としての賠償」について述べます。

複十字病院 呼吸器内科
内山 隆司

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