乳がん
複十字病院で行っている乳がん内視鏡手術
当院では、乳房温存術後の乳房の整容性を重視し、2005年より皮膚浸潤のない乳房温存手術の全例に対して乳癌内視鏡手術を行っております。
乳癌は終末末梢乳管腺葉ユニットから発生し乳頭方向へ進展する性質があることから、乳房温存手術において乳頭側の切除断端の取り残しを可能な限り少なくする目的で、乳頭を「扇のかなめ」とする乳腺扇状切除で行っています(図1青点線)。
通常の手術では、腋窩郭清(あるいはセンチネルリンパ節生検)のための腋窩切開創と癌の直上に大きく切開線をおいて扇状切除を行います(図1B)が、内視鏡手術では①乳輪半周切開、②腋窩切開創および③外側傍乳房線5ミリの3つの切開創(図1A)で扇状切除を行います。①の乳輪切開創は乳輪の色の変わり目におくことから術後ほとんどわからなくなります。②の腋窩切開創はセンチネルリンパ節生検の創を再利用し、脇のしわに沿って切開するため腕を挙げたてもほとんど目立ちません。また、③の外側傍乳房線の5ミリの創は術後に排液のための管の挿入孔として利用し、下着や水着の紐で隠れる部位でほとんど目立ちません。また、切除した乳腺欠損部を④の頭側の乳腺・脂肪を授動して充填再建して乳房の形を整えます(図2)。④の授動は広範な剥離が必要で、内視鏡手術だからこそ可能な方法であります。
図1 手術切開創
内視鏡手術の手術時間は通常の手術よりやや長めでしたが、扇状切除の直線部分の切離をワイヤを使用して行うことでなどの手技の改良により最近では通常手術と変わらない時間で行えるようになっています。出血量に関しては、明らかに内視鏡手術の方が少ないという結果が出ています。
また、術後の疼痛も従来の手術より明らかに少なく、そして通常の手術では術後徐々に進行していく創によるひきつれに対しても、内視鏡手術は創が小さいことから長期にわたる整容性についても良好であるという結果を我々の施設から報告しています(図3)。
図3 術後整容性(1.0に近いほど整容性が高い評価となる)
乳癌内視鏡手術の最大の目的は、乳癌術後に整容性の高い乳房の実現であります。乳房の整容性に関与する因子としては、ⅰ)乳腺の切除量、ⅱ)手術創の位置と大きさ、ⅲ)乳腺欠損部の充填、の3つが挙げられます。内視鏡手術の有利性は、ⅱ)に対してのみで、ただ内視鏡を使って手術をすれば整容性が高くなるというわけではないということを認識して、我々の施設ではⅰ)やⅲ)に対しても様々な工夫を行っております。
2007年に、乳がん検診受診者587人(平均年齢:55.6歳)に乳癌手術に関して次のようなアンケート調査を行いました。
Ⅰ.再発や予後が同等なら、乳房全摘と乳房温存のどちらを希望されますか?
Ⅱ.乳房温存手術において、手術創についてどのような希望がありますか?
Ⅲ.乳房にほとんど創をつけずに手術ができるなら遠くの病院まで行かれますか?
その結果(図4)、多くは乳房温存手術、しかも整容性の高い乳房温存手術を望んでいることがわかりました。またその際は、遠くの病院へ行ってでもそのような手術を受けるというように、多少の犠牲を払ってでも整容性を重視したいという気持ちのあることもわかりました。現に、当院には首都圏の各県はもとより、東北や関西・九州からも内視鏡手術を受けに来られている患者さんがおります。
図4
当院では、乳癌内視鏡手術に関しましては、患者さんに余分な金銭的負担をお願いすることはありません。保険診療の範囲内で行っております。また、入院期間や術後のリハビリ、さらには術後の放射線治療や薬物療法などは通常の手術後と何ら変わりません。当院の乳癌内視鏡手術の実績は、乳腺センターのホームページを見ていただくとわかります。整容性の高い乳房温存術、さらには患者さんのQOL(生活の質)の高い乳癌診療を目指して、さらなる技術の改良を行っております。
当院の「乳がん内視鏡手術」についての詳細は、「Doctorbook」で動画配信を行っております。→こちらをご参照ください。