臨床倫理の基本方針
Ⅰ 複十字病院 臨床倫理の基本方針
当院では質の高い温かな医療と看護の提供を理念としています。これに基づき患者さんの人権を最大限に尊重し、患者さんにとって最善の利益を追求する医療を提供し、患者さんの権利と生命の尊厳を守るため、ここに臨床倫理の基本方針を制定します。
2024年8月
患者さんの尊厳と権利の尊重
全ての患者さんに対し尊厳をもって接し、個々の価値観、信念、文化的背景を尊重します。
患者さんが自身の治療方針に関する情報を十分に得た上で、自己決定を行う権利を保障します。
インフォームド・コンセント
患者さんに対して、診断・治療の選択肢、リスクおよび利益について十分に分かりやすい説明を行います。
患者さんが十分な情報に基づき自主的に治療を選択するための同意を得るプロセスを尊重します。
プライバシーと機密性の保護
患者さんの個人情報および診療情報を厳格に保護し、外部への不適切な開示を防止します。
診療過程において、患者さんのプライバシーを最大限尊重します。
公平性と平等な医療提供
性別・年齢・障害・人種・宗教・経済状況などに関わらず、全ての患者に対して公平かつ平等な医療を提供します。
医療サービスへのアクセスを平等に提供し、誰もが適切な医療を受けられるように努めます。
患者中心の医療
患者さんが自身の治療やケアに積極的に参加できる環境を整えます。
患者さんの健康状態を継続的にモニタリングし、必要に応じて適切なフォローアップを行います。
Ⅱ 具体的な倫理的課題への対応方針
意識不明・自己判断不能患者に対する対応方針
- 家族など適切な代理人がいる場合は、その代理人の推定意思を尊重し、患者さんにとっての最善の方針をとることを基本として合意を得ます。
- 適切な代理人がいない場合は、主治医を含む2者または3者の合議の上で、患者さんにとっての最善の方針をとることを基本として、臨床倫理の基本方針に則り判断します。
心肺蘇生術を行わない指示について
心肺蘇生の有効性と予想される結果について患者さんや家族に十分に説明し、理解と合意を得ることを前提とします。その上で、*心肺蘇生行為を実施しない(DNAR)指示に関する基本指針 に則り判断します。
- 患者さんが意思表示できる間に、蘇生に対する希望を確認し、それを尊重します。
- 患者さんの意思を確認できない場合で、家族が患者さんの意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、患者さんにとっての最善の治療方針をとることを基本とします。
- 家族が患者さんの意思を推定できない場合には、患者さんにとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者さんにとっての最善の治療方針をとることを基本とします。
- 家族がいない場合および家族が判断を当院に委ねる場合には、患者さんにとっての最善の治療方針をとることを基本とします。
DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)とは、終末期状態の患者(癌の末期、⽼衰、救命の可能性がない患者など)で、心肺停止時に心肺蘇生行為を行わないことをいう。DNAR を医師が指示することを「DNAR 指示」という。心肺停止時の心肺蘇生行為とは、心臓マッサージ、電気的除細動、気管挿管、人⼯呼吸器の装着、強心剤の投与など心肺蘇生のためのすべての⼿技、処置、投薬を指す。いわゆる終末期状態の患者に対する治療方針の選択とは異なるので、混同してはならない。
Ⅰ. DNAR 指示を考慮する場合
- 患者、家族からの要請(事前指示書あるいは⼝頭で明確な意思表示)が出された場合、それをもとに主治医(担当医)は患者、家族とその後の方針を検討する。DNAR 指示を考慮する時期については、患者の病状や理解能⼒、感受性などを考慮し、画⼀的ではなく個別的に対応していく。
- 進行性疾患で死が差し迫っている終末期や⽼衰末期患者などで、心肺蘇生行為が妥当な処置とは考えられない患者を対象とし、以下の 2 つの要件を満たす場合に、主治医(担当医)から DNAR を選択枝の⼀つとして提示することができる。
(1)医学的に死期が近い状態で、心肺停止がさし迫っていると判断される。
(2)心肺蘇生行為を実施しても医学的に治療の効果が期待できないと判断される。
(治療的限界、医学的無益性)
Ⅱ. DNAR 指示の決定に関する基本指針
- 意思決定能⼒のある患者の場合
意思決定能⼒のある患者はいつでも「DNAR 指示」を要請できる。要請を受けた主治医(担当医)は速やかに患者、代理意思推定者(家族など)と協議を行わなければならない。この際、客観的な医学的判断の妥当性を評価し、患者の意思が尊重される。 - 意思決定能⼒のない患者の場合
(ア)事前指示書がある場合
患者の意思決定能⼒があるときに書かれた「終末期状態で心肺蘇生行為を拒否することを明示した文書」(事前指示書)を患者が携えている場合は、客観的な医学的判断の妥当性を評価し、この文書における患者の意思を尊重しなければならない。しかし、その時点で家族から異なった意⾒が出された場合は、関係者間で協議する。
本来、事前指示書の作成段階で、患者・家族・主治医(担当医)の間で十分な話し合いを持つことが望ましい。
(イ)事前指示書がない場合
意思決定能⼒のない患者で DNAR 指示が医学的に妥当と判断される、あるいは代理意思推定者(家族など)からの DNAR の要望が出される場合に、DNAR 指示を検討する。
この場合、客観的な医学的判断を行い、心肺蘇生行為が本人の生命維持に与える影響を十分説明した上での代理意思推定者(家族など)の意向表明が必要である。
輸血拒否患者への対応について
- 全ての⼿術や出血する可能性のある検査および治療では輸血を伴う可能性があることから、患者さんおよび家族に対し、輸血治療についてできる限り十分な説明を行い、輸血の同意が得られるよう最大限努⼒します。輸血の同意が得られず、絶対的無輸血での処置を希望される場合は、当院での治療はできないものとします。
- 当院は相対的無輸血治療を基本方針とし、輸血治療を行わないことで生命に切迫した危険性がある場合には、救命のため、同意が得られない場合でも輸血を行います。
- 絶対的無輸血を誓約する免責証明書等に署名・捺印はいたしません。
※絶対的無輸血:患者さんの意志を尊重し、たとえいかなる事態になっても輸血をしないという立場・考え方。
※相対的無輸血:患者さんの意志を尊重して可能な限り無輸血治療に努⼒するが、「輸血以外に救命⼿段がない」事態に至った時には輸血をするという立場・考え方。
検査・治療・入退院の拒否、指示不履行について
医療行為によって生ずる負担と利益の説明に努め、その上で望まない医療行為を患者さんが拒否できる権利を認めます。ただし、感染症法などに基づき、医療行為の拒否は制限される場合があります。
退院の拒否および強制退院について
⼀般的に医師が入院治療を必要としないという診断を行い、診断に基づき患者さんに対して退院すべき旨の意思表示があった時は、特段の理由が認められない限り入院診療契約は終了すると考えられているので、医師は退院を拒否する患者さんおよび家族に対しても退院の方針を説明します。なお、患者さんの問題行動が病院の秩序に著しく支障を及ぼすと考えられる場合や威⼒業務妨害や脅迫、暴行などの犯罪行為に関係すると思われる場合は、診療を拒否しうる正当な理由になると考えられ、院長が強制退院を勧告できます。
人生最終段階における医療について
人はそれぞれの人生観や思いに基づいて将来のことを考えています。自分らしい生活が送れるよう、単なる医療処置の選択だけでなく大切にしている想いをつなぐことを支援します。「わたしの思い⼿帳」は当ホームページよりダウンロードできます。医療については厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(2018年改定)」を参考に実施します。
身体拘束について
身体拘束は、本人の行動の自由を制限し、尊厳を損なう行為です。身体拘束の3原則「切迫性」「代替性」「⼀時性」を遵守し、やむを得ない場合でも多職種で話し合い、また身体拘束最小化チームで院内ラウンドを行いその必要性を検討し早期解除に向けて努⼒することを基本姿勢とします。